FOR COUNSELORS

カップルカウンセリングの進め方

同業のカウンセラー・心理士・対人援助職の方向けに、当オフィスでの進め方を公開しています。「相談しに来る側」のページではないので、専門的な記述を含みます。

このページの目的:カップルカウンセリングは個人カウンセリングと根本的に異なる構造を持ちます。「個人面接の延長」で対応すると、しばしば関係を悪化させます。私たちが現場で使っている枠組みをオープンにすることで、業界全体の質の底上げに少しでも貢献できればと考えています。

目次

  1. なぜ個人面接の枠組みが効かないのか
  2. 3つのアプローチの組み合わせ方
  3. 初回セッションの構造(インテーク)
  4. 「ループの可視化」の技法
  5. 介入のタイミング
  6. 注意すべき4つの失敗パターン
  7. DV・モラハラのスクリーニング
  8. 推奨書籍とトレーニング

1. なぜ個人面接の枠組みが効かないのか

個人カウンセリングでは、クライアントの語りを受容・共感し、内省を促進するのが基本動作です。これをカップルセッションに持ち込むと、片方が「自分だけ深く理解されている」と感じ、もう片方が「カウンセラーは相手の味方だ」と感じる、いわゆる「アライアンスの偏り」が起きます。

カップルセラピーで扱うのは「2人それぞれ」ではなく、2人の間で起きている相互作用パターンです。クライアントは「彼/彼女」ではなく、「私たち(the relationship)」です。この視点の転換ができていないと、片方を救えば片方が傷つく、というジレンマから抜け出せません。

視点の比較

個人面接クライアント個人の内的世界の探索
カップル面接2人のシステムの中で起きている循環の観察と介入

2. 3つのアプローチの組み合わせ方

① ゴットマン法(The Gottman Method)

John Gottman の40年以上の縦断研究に基づくエビデンスベースのアプローチ。最大の強みは「離婚予測」の研究から導き出された関係を壊す4つのパターン(The Four Horsemen)を観察可能な行動として記述している点です。

当オフィスでは、最初の2セッションでこの4パターンの有無をスクリーニングし、特に「侮辱」が頻出する場合は重大な予後リスクとして扱います。

② EFT(Emotionally Focused Therapy)

Sue Johnson が体系化した愛着理論ベースのカップルセラピー。表面的な対立行動の下にある「一次感情(primary emotion)」にアクセスし、絆を結び直すことを目的とします。

当オフィスでは、特に "Pursuer-Withdrawer cycle"(追跡者-回避者の循環)の同定にEFTのフレームを使います。「追う側」の表面の怒りの下にある「見捨てられ不安」、「逃げる側」の表面の冷淡さの下にある「失敗への恐怖」をクライアントに言語化してもらうところが介入の核です。

③ 内観療法

吉本伊信が体系化した日本発祥の心理療法。当オフィスでは、その3つの問いをカップル文脈に翻訳して用います。

欧米のカップルセラピーは「アサーション」「自己主張」が前提です。一方、日本人クライアントの多くは「言わない」「察する」文化の中で関係を築いており、自己主張の枠組みだけだと「言えるようになる前にカウンセリングが終わる」という事態が起きます。内観の問いは、自己主張の前段にある関係の再認識として機能します。

組み合わせの基本シーケンス

  1. 初回〜2回:ゴットマン法の枠組みでスクリーニング・パターンの記述
  2. 3〜5回:EFT で一次感情にアクセス・ループの再構成
  3. 必要に応じて中盤:内観療法的な問いを宿題として導入
  4. 後半:ゴットマン法の対話スキルトレーニング(Soft Startup, Repair Attempt等)

3. 初回セッションの構造(インテーク)

初回(120分推奨)の標準的な進行を示します。

0-10分挨拶、構造化、守秘の説明、安全宣言(人格否定の禁止、途中離席OK)
10-30分2人それぞれから「今日ここに来た理由」を5分ずつ。さえぎらない
30-50分関係史。出会い〜現在までを2人で語ってもらう
50-70分典型的な対立の最近の具体例を1つ取り上げ、その流れを再現してもらう
70-90分個別面接(10分ずつ)。DV/不貞/別離の意思の有無を個別に確認
90-110分仮説のフィードバック。「私には今の段階でこう見えています」を共有
110-120分次回までの宿題(小さな1つだけ)と次回予約

個別面接の重要性:2人同席のままでは話せないこと(不貞・別離意思・暴力被害)が必ずあります。個別面接の時間を最初から構造に組み込んでください。「機会があったら聞く」では聞き出せません。

4. 「ループの可視化」の技法

カップルセラピーで最も強力な介入の一つが、ループの可視化です。多くのクライアントは「相手が悪い」「自分が悪い」のフレームでしか問題を理解しておらず、システムとしての問題を見たことがありません。

典型的な可視化の手順

  1. 最近の喧嘩を1つ選び、その始まりから終わりまでを時系列で再構成する
  2. 各時点での「行動」と「感情」を分けて聞く(混同するクライアントが多い)
  3. ホワイトボードまたは共有画面に円環状に図示
  4. 「これは誰が悪いという話ではなく、お2人の間でこういう流れが繰り返されているように見えます」と提示
  5. 2人に「この図、当たっていますか」と確認を求める(ここで修正を入れる)

サンプル:典型的な追跡-回避ループ

①Aの一次感情:寂しい・不安
       ↓
②Aの行動:連絡・問い詰め
       ↓
③Bの解釈:責められている・支配されている
       ↓
④Bの一次感情:自尊心の揺らぎ・脅威
       ↓
⑤Bの行動:撤退・無言・遅延返信
       ↓
⑥Aの解釈:見捨てられた・大事にされていない
       ↓
①へ戻る(強化されながら)

このループ図を1枚作るだけで、2人の対立構造が「あなたVSわたし」から「2人VSパターン」に変わります。これが起きると、その後の対話の温度がはっきり下がります。

5. 介入のタイミング

セッション中、いつ介入するかは技術の核です。

介入すべきタイミング

介入しすぎを避けるべきタイミング

6. 注意すべき4つの失敗パターン

① 仲裁者になってしまう

「あなたはこう、あなたはこう」と裁判官のように整理しようとする。一見公平だが、判決を出す立場に立った瞬間、カップルセラピストは機能しなくなる。

② 関係を続ける方向にバイアスをかける

「別れる」を選ぶことを敗北のように扱わない。「整理した上で別れる」も成功の一形態。むしろ無理な再構築の方が長期的なダメージを生む。

③ 感情を扱わずスキルだけ教える

「I-message を使いましょう」を一次感情への接触なしに教えると、テクニックだけが空転する。感情にアクセスせずに変わったカップルは、ほぼ必ず再発する。

④ 個別面接をやらない

2人同席だけで進めると、不貞・暴力・別離意思を聞き取り損ねる。これは事故に直結するため、構造として個別面接時間を必ず確保する。

7. DV・モラハラのスクリーニング

カップルセラピーで最も避けねばならないのは、暴力被害が継続している関係を「2人で話し合いましょう」と呼び出してしまうことです。これは被害者をさらなる危険にさらします。

スクリーニング項目(個別面接で)

1つでも該当する場合、カップルセラピーは原則として中止し、被害者支援に切り替えます。リファー先(DV相談ナビ #8008、配偶者暴力相談支援センター等)を即座に提示できる準備が必要です。

8. 推奨書籍とトレーニング

書籍(基礎)

書籍(臨床)

トレーニング

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