FOR COUNSELORS
同業のカウンセラー・心理士・対人援助職の方向けに、当オフィスでの進め方を公開しています。「相談しに来る側」のページではないので、専門的な記述を含みます。
個人カウンセリングでは、クライアントの語りを受容・共感し、内省を促進するのが基本動作です。これをカップルセッションに持ち込むと、片方が「自分だけ深く理解されている」と感じ、もう片方が「カウンセラーは相手の味方だ」と感じる、いわゆる「アライアンスの偏り」が起きます。
カップルセラピーで扱うのは「2人それぞれ」ではなく、2人の間で起きている相互作用パターンです。クライアントは「彼/彼女」ではなく、「私たち(the relationship)」です。この視点の転換ができていないと、片方を救えば片方が傷つく、というジレンマから抜け出せません。
| 個人面接 | クライアント個人の内的世界の探索 |
|---|---|
| カップル面接 | 2人のシステムの中で起きている循環の観察と介入 |
John Gottman の40年以上の縦断研究に基づくエビデンスベースのアプローチ。最大の強みは「離婚予測」の研究から導き出された関係を壊す4つのパターン(The Four Horsemen)を観察可能な行動として記述している点です。
当オフィスでは、最初の2セッションでこの4パターンの有無をスクリーニングし、特に「侮辱」が頻出する場合は重大な予後リスクとして扱います。
Sue Johnson が体系化した愛着理論ベースのカップルセラピー。表面的な対立行動の下にある「一次感情(primary emotion)」にアクセスし、絆を結び直すことを目的とします。
当オフィスでは、特に "Pursuer-Withdrawer cycle"(追跡者-回避者の循環)の同定にEFTのフレームを使います。「追う側」の表面の怒りの下にある「見捨てられ不安」、「逃げる側」の表面の冷淡さの下にある「失敗への恐怖」をクライアントに言語化してもらうところが介入の核です。
吉本伊信が体系化した日本発祥の心理療法。当オフィスでは、その3つの問いをカップル文脈に翻訳して用います。
欧米のカップルセラピーは「アサーション」「自己主張」が前提です。一方、日本人クライアントの多くは「言わない」「察する」文化の中で関係を築いており、自己主張の枠組みだけだと「言えるようになる前にカウンセリングが終わる」という事態が起きます。内観の問いは、自己主張の前段にある関係の再認識として機能します。
初回(120分推奨)の標準的な進行を示します。
| 0-10分 | 挨拶、構造化、守秘の説明、安全宣言(人格否定の禁止、途中離席OK) |
|---|---|
| 10-30分 | 2人それぞれから「今日ここに来た理由」を5分ずつ。さえぎらない |
| 30-50分 | 関係史。出会い〜現在までを2人で語ってもらう |
| 50-70分 | 典型的な対立の最近の具体例を1つ取り上げ、その流れを再現してもらう |
| 70-90分 | 個別面接(10分ずつ)。DV/不貞/別離の意思の有無を個別に確認 |
| 90-110分 | 仮説のフィードバック。「私には今の段階でこう見えています」を共有 |
| 110-120分 | 次回までの宿題(小さな1つだけ)と次回予約 |
個別面接の重要性:2人同席のままでは話せないこと(不貞・別離意思・暴力被害)が必ずあります。個別面接の時間を最初から構造に組み込んでください。「機会があったら聞く」では聞き出せません。
カップルセラピーで最も強力な介入の一つが、ループの可視化です。多くのクライアントは「相手が悪い」「自分が悪い」のフレームでしか問題を理解しておらず、システムとしての問題を見たことがありません。
①Aの一次感情:寂しい・不安
↓
②Aの行動:連絡・問い詰め
↓
③Bの解釈:責められている・支配されている
↓
④Bの一次感情:自尊心の揺らぎ・脅威
↓
⑤Bの行動:撤退・無言・遅延返信
↓
⑥Aの解釈:見捨てられた・大事にされていない
↓
①へ戻る(強化されながら)
このループ図を1枚作るだけで、2人の対立構造が「あなたVSわたし」から「2人VSパターン」に変わります。これが起きると、その後の対話の温度がはっきり下がります。
セッション中、いつ介入するかは技術の核です。
「あなたはこう、あなたはこう」と裁判官のように整理しようとする。一見公平だが、判決を出す立場に立った瞬間、カップルセラピストは機能しなくなる。
「別れる」を選ぶことを敗北のように扱わない。「整理した上で別れる」も成功の一形態。むしろ無理な再構築の方が長期的なダメージを生む。
「I-message を使いましょう」を一次感情への接触なしに教えると、テクニックだけが空転する。感情にアクセスせずに変わったカップルは、ほぼ必ず再発する。
2人同席だけで進めると、不貞・暴力・別離意思を聞き取り損ねる。これは事故に直結するため、構造として個別面接時間を必ず確保する。
カップルセラピーで最も避けねばならないのは、暴力被害が継続している関係を「2人で話し合いましょう」と呼び出してしまうことです。これは被害者をさらなる危険にさらします。
1つでも該当する場合、カップルセラピーは原則として中止し、被害者支援に切り替えます。リファー先(DV相談ナビ #8008、配偶者暴力相談支援センター等)を即座に提示できる準備が必要です。
※このページは継続的に更新します。質問・指摘・「ここはこう書いた方が良い」というフィードバックは歓迎します。問い合わせフォームからお寄せください。